中村靖彦の今日思うこと

思いつくままの日記

空白を取り戻すのに何年かかる?

6月14日付けの「日本農業新聞」にこんな記事が載っていました。f:id:terakoya05:20170614105606j:image新しいパン用の小麦が開発されたという記事です。東北と北陸向けで、現在寒い地域で多く栽培されている「ゆきちから」という品種に負けない「夏黄金」という品種だそうです。いま日本の小麦の自給率は10%程度でとても低い上に、美味しいパンを作るのに適した品種は少ないのが実情です。「夏黄金」は、育種でこの点を改良して、角型食パンを作るのに適した品種に育てたということです。このような研究成果は貴重です。ただ長いこと農業政策を見てきた私としては、つい少し以前を振り返りたくなってしまいます。日本は第二次大戦前までは小麦の生産が盛んでした。量だけでなく、質の上でも優れた小麦を生産していました。終戦となった直後、アメリカの農務官が日本にやつてきて、日本の小麦の品種「農林10号」を母国に持ち帰りました。倒れにくく収穫量も安定していたこの品種は、交配されて当時のアメリカの小麦を変えたと言われています。さらにこの品種は、後にノーベル賞を受けたボーローグ博士の目に留まり、インド、パキスタン緑の革命をもたらす小麦となるのです。しかし戦後、日本の農政はコメ中心となりました。主食のコメが不足していた状況ではやむを得ない選択だったかもしれませんけれどもこのような環境の中で、日本の小麦生産は衰退の一途を辿っていきました。そしていま、にほんの食生活が変わっていく中で、小麦への関心もまた高まっています。けれども一度衰えた技術を立て直すのは容易なことではありません。地味なようでも、基礎的な技術を維持していくことがどんなに大切か、私は折りにふれて思い起こしています。